「暮らす」と「働く」がつながる場所

店主が目指したのは、お客さまが"住むようにくつろげる店"。「家みたいに安心してもらえたら」と話す石岡さんにとって、穏やかな段原の空気はぴったりでした。そこで住まいもお店もこの街に構えることに。ご近所の方が挨拶を交わすようなやわらかな雰囲気も、店主ご夫妻にとって大きな決め手になりました。

店内の空間は、大工さんと相談しながら作り上げたもの。土壁は、古民家にあった100年以上前のものを練り直し、カウンターのテーブルは玄圃梨（ケンポナシ）の一枚板。椅子はマルニ木工さんの「HIROSHIMA」という名のアームチェアで、その肘掛けに合わせてテーブルの高さも細かく調整されています。壁にはアンモナイトや縄文土器、カヤネズミの巣。店内にさりげなく置かれたものたちは、見た目の華やかさではなく、素朴で、時を経たものならではの存在感があります。

料理が主役。でも、器や空間もその魅力を引き出す大事な要素とのこと。使いやすく、主張しすぎず、それでいて味わいのあるものを選ぶという考え方は、店主の料理の姿勢にも通じています。

「できるだけ近くで旬のもの」が基本。松葉蟹は鳥取から、鮎は島根県 高津川上流・匹見川や、山口県 錦川上流・宇佐川で友釣りされる方から直接買い付けています。

冬のイメージが強いトラフグは、春に瀬戸内海へ産卵に来る天然物を使っています。今治の漁師・藤本さんが漁獲し、神経抜きまで施したものです。このトラフグと春の山菜を合わせた料理は、潮のタイミングに合わせて来店日を調整する常連のお客さんが毎年いらっしゃるほど。季節限定の特別な料理です。

食材だけでなく、水にもひと手間かけています。臥竜山などで汲んだ湧水を使い、出汁を引いたり、お酒の前に“和らぎ水”として出すことも。

素材の話は、声をかけたときにふと返ってくるのが石岡さん流。「この大根、おいしいですね」と尋ねれば、「軽くオイルで炒めてから混ぜてるんです」と笑顔で教えてくれる。そんな何気ないやりとりから、料理の背景が自然と見えてくるのも、このお店の魅力です。

今日のために整えられたお料理をゆっくり楽しむ

「悠然いしおか」は、時間に追われることなく、ゆったりと食事を楽しんでほしいという思いから、基本的に一回転のみの営業スタイルです。お子さま連れの方も歓迎。時間制限もないため、自分のペースで料理を味わうことができます。気になる場合は予約時にその季節の料理について確認してみるのもおすすめです。
段原の住宅街にある、静かであたたかなお店。初めての方も、気軽に訪れてみてください。